PDEとOELの違いとは?製薬現場での目的・使い分けを解説
医薬品製造の現場では、「PDE(Permitted Daily Exposure:1日曝露許容量)」と「OEL(Occupational Exposure Limit:職業曝露限界)」という曝露限度値が用いられます。
どちらも毒性学的な情報をもとに設定される値ですが、目的は同じではありません。
最も重要な違いは、「誰の健康を、どのような曝露から守るための値なのか」という点です。
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PDE:主に、医薬品中への交叉汚染等による曝露から患者を保護するために用いられる値
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OEL:製造・取扱作業中の職業曝露から労働者を保護するために用いられる値
本記事では、製薬現場で混同されやすいPDEとOELについて、その目的、設定の考え方、実務上の使い分けを解説します。
PDEとOELの主な違い
| 比較項目 | PDE | OEL |
|---|---|---|
| 正式名称 | Permitted Daily Exposure | Occupational Exposure Limit |
| 主な保護対象 | 患者 | 労働者 |
| 主な曝露場面 | 他の医薬品への交叉汚染等を介した曝露 | 製造・取扱作業中の職業曝露 |
| 一般的な単位 | mg/day、µg/dayなど | mg/m³、µg/m³など |
| 主な用途 | 共用設備における交叉汚染リスク評価、洗浄管理等 | 曝露評価、封じ込め対策、作業管理等 |
| 評価の基礎 | 薬理・毒性学的データ、曝露経路等 | 薬理・毒性学的データ、職業曝露条件等 |
PDEとOELでは、同じ毒性試験や臨床情報が評価対象になることがあります。
しかし、保護対象、曝露経路、曝露期間、曝露頻度などの前提が異なるため、PDEとOELを単純に換算したり、一方をそのまま他方の代わりに使用したりすることはできません。
PDEとは
PDE(Permitted Daily Exposure)は、ある物質への1日当たりの曝露量について、健康上許容できると評価される量を示す値です。
製薬分野では、特に共用製造設備における交叉汚染リスクの評価に用いられるHBEL(Health-Based Exposure Limit:健康に基づく曝露限度値)の代表的な表現として使用されています。
共用設備とHBEL
複数の医薬品を同じ設備で製造する場合、前に製造した製品の有効成分等が残留し、次の製品に持ち込まれる可能性があります。
EMAのHBELガイドラインでは、このような共用設備における交叉汚染リスクを科学的に評価するため、薬理学・毒性学的データに基づいて物質ごとの安全な曝露限度値を設定する考え方が示されています。
PDEは、そのリスク評価に使用される代表的な指標です。
PDE設定では何を評価するのか
PDEの設定では、対象物質について利用可能な情報を収集し、重要な健康影響を特定します。
例えば、
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薬理作用
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反復投与毒性
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生殖・発生毒性
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遺伝毒性
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発がん性
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臨床で認められた有害作用
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感作性等の特有のハザード
などを確認し、PDE設定の根拠となる重要な影響や用量を選定します。
そのうえで、個体差、種差、試験期間、毒性の重篤性などを考慮した調整係数を適用し、科学的に妥当なPDEを導出します。
したがってPDEは、単に計算式に数値を当てはめれば設定できるものではなく、どの毒性学的知見を重要と判断するかという専門的評価が中心となります。
PDEはどのように使われるのか
1.共用設備における交叉汚染リスクの評価
PDE/HBELは、ある製品を製造した設備を別の製品にも使用できるかを検討する際の重要な情報となります。
ただし、PDEだけで共用設備の使用可否が決まるわけではありません。
製造工程、設備、封じ込め性能、洗浄方法、製品特性などを含めたQuality Risk Management(QRM)の中で使用されます。
2.洗浄管理に用いる許容限度値の設定
PDEは、洗浄バリデーション等で使用する残留許容限度値を設定する際の出発点として利用されます。
実際の許容残留量を設定する際には、PDEそのものを洗浄基準とするのではなく、次製品の投与量やバッチサイズなどの条件を考慮して、MACO(Maximum Allowable Carryover:最大許容キャリーオーバー)等の管理値へ展開します。
このため、
PDE=洗浄基準値
ではなく、
PDEを毒性学的な根拠として、製造条件を考慮した管理基準を設定する
と理解するのが適切です。
ICH Q3C・Q3Dで使われるPDEとの関係
「PDE」という用語は、共用設備の交叉汚染管理だけで使われているものではありません。
ICH Q3Cでは残留溶媒、ICH Q3Dでは元素不純物について、それぞれ毒性学的評価に基づくPDEが設定されています。
これらはいずれも、毒性学的評価に基づいて1日あたりの許容曝露量を設定するというPDEの基本的な考え方は共通しています。
一方で、対象とする物質やリスク、設定したPDEをどのような品質管理に用いるかが異なります。
・ICH Q3C:残留溶媒の管理
・ICH Q3D:元素不純物の管理
・共用設備におけるHBEL/PDE:他製品由来成分の交叉汚染リスク管理
OELとは
OEL(Occupational Exposure Limit)は、労働者の健康を職業曝露から保護するための曝露限度値です。
製薬工場では、原薬や中間体などを秤量、投入、混合、造粒、打錠、洗浄する工程で、粉体や蒸気等に労働者が曝露する可能性があります。
OELは、このような作業時の曝露を評価・管理する際の基準として使用されます。
多くの場合、空気中濃度として、
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mg/m³
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µg/m³
などで示され、8時間時間加重平均値(8-hour TWA)等として設定されます。
OEL設定では何を評価するのか
既に信頼できる公的・専門機関の職業曝露限界値が存在する物質では、それらの値や根拠を確認して管理に利用することがあります。
一方、新規原薬や開発化合物などでは、利用可能なOELが存在しない場合があります。
その場合には、対象物質の薬理・毒性学的情報を評価し、職業曝露を想定した自主的なOELを設定することがあります。
OEL設定でも、
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薬理作用
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反復投与毒性
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生殖・発生毒性
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遺伝毒性
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発がん性
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感作性
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その他、職業曝露上重要となる影響
などが評価対象となります。
ただし、PDEとは保護対象や曝露条件が異なるため、同じデータを使用したとしても、評価の考え方や最終的な値が同じになるとは限りません。
OELはどのように使われるのか
1.職業曝露の評価
作業者の個人曝露測定などによって得られた空気中濃度をOELと比較し、曝露が適切に管理されているかを評価するために使用されます。
なお、日本の法令で定められる管理濃度等と、企業が毒性学的評価に基づいて設定するOELは、必ずしも同じ概念ではありません。
使用する値の位置付けを確認することが重要です。
2.封じ込め対策の検討
OELは、製造設備に求められる封じ込め性能や作業管理を検討する際の重要な情報になります。
製薬企業では、OEL等をもとにOEB(Occupational Exposure Band)へ分類し、管理方策を検討する場合もあります。
ただし、OEBの区分や各バンドに対応する管理方法は、企業や採用するシステムによって異なります。
3.リスク低減措置の検討
曝露評価の結果を踏まえ、
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密閉化・封じ込め
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局所排気
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作業方法の改善
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作業時間の管理
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呼吸用保護具等の使用
といった対策を検討します。
OELは、このような対策の必要性や十分性を判断するための一つの基準となります。
PDEとOELはどちらを設定すればよいのか
PDEとOELは、どちらか一方を選択する関係ではありません。
例えば同じ原薬について、
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他製品への交叉汚染による患者への影響を評価するためにPDEを使用する
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製造工程でその原薬を取り扱う労働者への影響を評価するためにOELを使用する
というように、異なるリスクを管理するためにそれぞれの値が必要となる場合があります。
特に製薬・原薬製造では、品質部門が扱う交叉汚染管理と、安全衛生部門が扱う職業曝露管理が別々に進められることがあります。
しかし、両者の基礎となる薬理・毒性学的情報には共通する部分も多いため、評価情報を適切に整理・共有することで、より一貫したリスク管理につなげることができます。
まとめ
PDEとOELはいずれも、毒性学的情報に基づいて健康リスクを管理するための曝露限度値ですが、その目的は異なります。
PDEは、主に患者を交叉汚染等による曝露から保護するための値です。
OELは、製造・取扱作業を行う労働者を職業曝露から保護するための値です。
両者は同じ毒性データを参照することがあっても、保護対象や曝露シナリオが異なるため、単純に相互換算することはできません。
製薬現場では、「PDEはいくらか」「OELはいくらか」という数値だけでなく、その値がどのようなデータと科学的判断に基づいて設定されたのかを説明できることが重要です。
株式会社ケミカル・リスクアセス・ソリューションズでは、医薬品・化学物質について、文献調査および毒性学的評価に基づくPDE・OEL設定を支援しています。
既存の評価値の妥当性確認、評価根拠の整理、PDE・OEL設定についてお困りの際は、ご相談ください。
主な参考資料
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European Medicines Agency (EMA), Guideline on setting health based exposure limits for use in risk identification in the manufacture of different medicinal products in shared facilities
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PIC/S, Guideline on Exposure Limits (PI 046-1)
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PIC/S, Questions and Answers on the Implementation of Risk-Based Prevention of Cross-Contamination in Production and HBEL (PI 053-1)
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ICH Q3C, Guideline for Residual Solvents
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ICH Q3D, Guideline for Elemental Impurities