PDE設定とは?算出方法・POD・調整係数(F1~F5)を解説

PDE設定とは?算出方法・POD・調整係数(F1~F5)を解説

医薬品を共用設備で製造する場合、前に製造した製品の有効成分等が次の製品に持ち越される「交叉汚染」のリスクを適切に管理する必要があります。

このような交叉汚染リスクを科学的に評価する際に用いられるのが、HBEL(Health-Based Exposure Limit:健康に基づく曝露限度値)です。

PDE(Permitted Daily Exposure:1日曝露許容量)は、HBELを示す代表的な指標の一つです。

PDE設定では、単に計算式に数値を当てはめるのではなく、対象物質について利用可能な薬理学的・毒性学的情報を評価し、「どの健康影響をPDE設定の根拠とするか」を科学的に判断することが重要です。

本記事では、医薬品製造におけるPDEについて、基本的な考え方からPOD、調整係数F1~F5、算出方法、評価書作成までを解説します。

PDEとは

PDE(Permitted Daily Exposure)は、ある物質について、毎日曝露された場合でも健康への有害影響が生じる可能性が低いと考えられる1日当たりの曝露量です。

通常、mg/dayやµg/dayなどで示されます。

共用設備で複数の医薬品を製造する場合、ある製品の有効成分等が設備に残留し、次に製造する医薬品へ持ち越される可能性があります。

このとき、残留する物質が患者にどの程度まで曝露しても健康影響を生じないと考えられるかを評価するために、PDE/HBELが利用されます。

PDEは、洗浄バリデーションの許容基準そのものではありません。

PDEを毒性学的な出発点として、次製品の1日投与量、バッチサイズ等の製造条件を考慮し、MACO(Maximum Allowable Carryover:最大許容キャリーオーバー)等の管理値へ展開します。

なぜPDEが必要なのか

従来、洗浄バリデーションでは「10 ppm」や「前製品の治療量の一定割合」など、画一的な基準が使用されてきました。

しかし、医薬品の有効成分は物質によって薬理作用や毒性が大きく異なります。

同じ残留量であっても、健康への影響が生じる可能性は物質によって異なるため、一律の基準だけでは物質固有のリスクを十分に反映できない場合があります。

そこで、現在の交叉汚染リスク管理では、利用可能な薬理学的・毒性学的情報を評価して物質ごとのHBELを設定し、その値をQuality Risk Management(QRM)の中で活用するという科学的・リスクベースの考え方が用いられています。

PDE設定の基本的な流れ

PDE設定は、大きく次のような流れで行います。

  1. 対象物質に関する情報を収集する

  2. 重要な健康影響(critical effects)を特定する

  3. PDE算出の出発点となるPODを選定する

  4. 調整係数を設定する

  5. PDEを算出する

  6. 算出根拠を評価書として文書化する

重要なのは、5番目の「計算」よりも、その前段階にある毒性学的評価です。

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1.薬理・毒性情報を収集する

最初に、対象物質について利用可能な情報を収集します。

製品の開発段階や情報の保有状況によって異なりますが、例えば以下が情報源となります。

  • CTDその他の非臨床・臨床資料

  • 医薬品インタビューフォーム

  • 添付文書

  • 審査報告書

  • 非臨床試験報告書

  • 臨床試験・臨床使用に関する情報

  • 学術論文

  • 公的機関の評価書

  • 国内外の医薬品情報

評価対象となる健康影響には、例えば次のようなものがあります。

  • 薬理作用

  • 単回・反復投与毒性

  • 生殖発生毒性

  • 遺伝毒性

  • 発がん性

  • 感作性

  • 臨床で認められた副作用・有害作用

  • その他、対象物質に特有の重要な影響

単に情報を列挙するだけでなく、その試験の設計、信頼性、ヒトへの関連性なども評価する必要があります。

2.Critical effectを特定する

収集した情報から、PDE設定において重要となる健康影響を特定します。

これをcritical effectと呼びます。

「最も低い用量で何らかの変化が出た影響」を機械的に選べばよいわけではありません。

例えば、

  • その変化が有害影響といえるか

  • ヒトにも関連すると考えられるか

  • 影響の重篤性

  • 可逆性

  • 用量反応関係

  • 試験の信頼性

  • 臨床データとの整合性

などを総合的に考慮します。

複数のcritical effectが存在する場合には、それぞれについてPDEを検討し、最終的に採用するPDEの根拠を明確にする必要があります。

3.PODを選定する

次に、PDE算出の出発点となるPOD(Point of Departure)を選びます。

代表的なPODとしてNOAELがあります。

NOAELとは

NOAEL(No-Observed-Adverse-Effect Level)は、試験で有害影響が認められなかった最高用量です。

重要なのは、「統計学的有意差がなかった用量」という意味ではないことです。

試験で認められた変化について、生物学的・毒性学的に有害な影響かどうかを判断した上でNOAELを設定します。

NOAELが得られない場合には、LOAEL(Lowest-Observed-Adverse-Effect Level)などを用いる場合もあります。

また、十分なデータが存在する場合には、Benchmark Dose(BMD/BMDL等)など別のPODを使用することも考えられます。

ヒトデータも重要

PDE設定では、動物試験だけでなく臨床データも重要です。

医薬品では、薬理作用や臨床での副作用が、交叉汚染として意図せず曝露された患者にとって重要な影響となる場合があります。

したがって、動物試験のNOAELを自動的にPODとするのではなく、利用可能なヒト・動物データ全体から適切な根拠を選定します。

4.PDE算出式

EMAのHBELガイドラインでは、基本的なPDE算出式として次の考え方が示されています。

PDE = NOAEL × 体重補正 ÷(F1 × F2 × F3 × F4 × F5)

ヒト用医薬品でmg/kg/dayのPODをmg/dayへ換算する場合、標準体重として50 kgが使用されることがあります。

ただし、PDE設定では式そのものよりも、

「なぜこのPODを選んだのか」
「なぜこの調整係数を選んだのか」

を科学的に説明できることが重要です。

5.調整係数F1~F5とは

動物試験等で得られたPODからヒトの安全な曝露量を推定する際には、さまざまな不確実性を考慮する必要があります。

そのためにF1~F5の調整係数を用います。

係数 主に考慮する内容
F1 動物からヒトへの種差
F2 ヒト集団内の個体差
F3 試験期間の不足
F4 毒性の重篤性など
F5 NOAELが得られていない場合等の調整

F1:種差

F1は、動物試験結果をヒトへ外挿する際の種差を考慮する係数です。

動物種に応じた係数が設定され、例えばラットからヒトへの外挿では5が用いられるなど、使用する動物種によって値が異なります。

ヒトデータを直接使用する場合には、動物からヒトへの外挿は不要となります。

F2:個体差

F2は、ヒト集団内の感受性のばらつきを考慮する係数です。

一般的なPDE算出では10が基本値として用いられますが、使用するデータや対象集団等を踏まえ、適用の妥当性を評価します。

F3:試験期間

F3は、比較的短期間の試験結果から長期曝露の影響を評価する際の不確実性を考慮する係数です。

例えばICH Q3Cの考え方では、げっ歯類の3か月試験では5、6か月試験では2、より短い試験では10など、試験期間に応じて係数が設定されています。

一方、生殖発生毒性試験など、評価対象となる影響に必要な曝露期間を十分にカバーしている試験では、考え方が異なる場合があります。

F4:毒性の重篤性

F4は、特に重篤な毒性を考慮する場合に適用される係数です。

例えば、非遺伝毒性発がん性、神経毒性、催奇形性などが検討対象となります。

すべてのPDE設定で機械的に大きなF4を使用するわけではなく、critical effectの性質を踏まえて設定します。

F5:NOAELが設定できない場合等

F5は、適切なno-effect levelが得られない場合などに用いられます。

例えばNOAELが得られずLOAELをPODとして用いる場合には、その不確実性を考慮して追加の係数を設定します。

PDEの計算例

以下は、計算方法を示すための単純な仮想例です。

前提

ラット13週間反復投与試験で、

  • NOAEL:10 mg/kg/day

  • F1:5

  • F2:10

  • F3:5

  • F4:1

  • F5:1

と評価されたとします。

50 kgの体重補正を用いると、

PDE = 10 × 50 ÷(5 × 10 × 5 × 1 × 1)

したがって、

PDE = 2 mg/day

となります。

ただし、実際のPDE設定では、このように一つの反復投与試験だけを見て計算するわけではありません。

他の毒性試験、臨床データ、薬理作用、生殖発生毒性、遺伝毒性、発がん性等を評価し、この試験・影響をPDEの根拠とすることが妥当かを確認する必要があります。

PDE設定は「最低値を計算する作業」ではない

複数の試験から複数のPDE候補が算出されることがあります。

複数の試験から複数のPDE候補が得られた場合、より低い値は重要な判断材料になりますが、単純に計算結果の最小値を採用すればよいとは限りません。

その影響がヒトに関連するか、試験の信頼性は十分か、用量設定は適切かなどを評価した上で、最終的に採用するPDEとその理由を明確にします。

PDE設定は、単なる計算作業ではなく、利用可能な毒性情報を総合的に評価し、科学的根拠に基づいて判断する業務です。
こうした判断には、Weight of Evidence(証拠の重み付け)の考え方が重要になります。

PDE設定を行う人に求められる専門性

PDE/HBELの設定は、計算式に数値を当てはめるだけで行えるものではありません。

PIC/SのQ&A(PI 053-1)では、HBELを設定する者には、毒性学・薬理学に関する十分な専門性と経験、医薬品に関する知識に加え、OEL(職業曝露限界)やPDEなどの健康ベース曝露限度値を設定した経験が求められています。

これは、PDE設定では、利用可能な薬理・毒性情報を評価し、重要な健康影響(critical effect)を特定したうえで、適切なPODや調整係数を選択するなど、専門的な判断が必要となるためです。

一方、製造・品質保証部門など、設定されたPDEを確認・利用する立場では、必ずしも自らPDEを設定することが求められるわけではありません。ただし、PDEがどのような根拠に基づいて設定されているかを理解し、交叉汚染リスク管理や洗浄バリデーション等に適切に活用するためには、PDE/HBELの基本的な考え方を理解しておくことが重要です。

投与経路が異なる場合

PDEを設定する際には曝露経路にも注意が必要です。

PDEの根拠となった試験の投与経路と、交叉汚染された医薬品を患者が使用する際の投与経路が異なる場合、バイオアベイラビリティ等を考慮した経路間外挿が必要になることがあります。

例えば経口データから注射剤や吸入剤への曝露を評価する場合には、単純に同じPDEを適用できるとは限りません。

経路間外挿の必要性は、物質ごとに評価します。

通常のPDE算出式だけでは評価できない場合

すべての物質について、NOAELにF1~F5を適用するだけで適切なHBELを設定できるわけではありません。

例えば、

  • 遺伝毒性を有する物質

  • 発がん性を有する物質

  • 強い感作性を有する物質

  • 十分な毒性情報が存在しない物質

  • 臨床データが主要な評価根拠となる物質

などでは、通常のPDE算出とは異なる検討が必要になる場合があります。

物質のハザード特性を最初に把握することが重要です。

PDE評価書には何を記載するのか

最終的なPDE値だけを示しても、評価として十分とはいえません。

評価書には、第三者が判断過程を確認できるよう、少なくとも次のような内容を記録します。

  • 評価対象物質の情報

  • 文献・情報の検索方法

  • 評価した薬理・毒性データ

  • 重要なハザード

  • critical effectの選定

  • PDEの根拠とした試験

  • PODの選定理由

  • F1~F5等の調整係数とその根拠

  • 投与経路の考慮

  • PDE算出結果

  • 最終PDEを採用した理由

  • 主要な原著文献

特に重要な試験については、可能な限り原著資料まで確認し、試験の質や報告内容を評価することが重要です。

PDE評価書は「PDE=○ mg/day」という結論だけを示す文書ではなく、その値に至る科学的判断を説明する文書です。

PDEとOELは同じではない

PDEとともに製薬現場でよく使用される値にOEL(Occupational Exposure Limit:職業曝露限界)があります。

PDEは主に、交叉汚染等を介して曝露される患者を保護するために用いられます。

一方、OELは、原薬等を製造・取り扱う労働者の職業曝露を管理するための値です。

両者は同じ薬理・毒性データを参照することがありますが、

  • 保護対象

  • 曝露経路

  • 曝露頻度

  • 曝露期間

  • 対象集団

などが異なるため、PDEからOELを単純換算することはできません。

PDEとOELの違いについては、別記事「PDEとOELの違いとは?製薬現場での目的・使い分けを解説」で詳しく解説しています。

まとめ

PDE設定では、次のプロセスが重要です。

  1. 薬理・毒性情報を収集する

  2. Critical effectを特定する

  3. 適切なPODを選定する

  4. F1~F5等の調整係数を設定する

  5. PDEを算出する

  6. 判断根拠を評価書として文書化する

PDE算出式そのものは複雑ではありません。

一方で、どの健康影響を重要と判断し、どの試験・用量をPODとし、どの調整係数を適用するかには、薬理学・毒性学的な専門判断が必要です。

したがってPDE設定では、最終的な数値だけでなく、その値がどのような情報と科学的判断に基づいて導出されたかを説明できることが重要です。

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主な参考資料

  • European Medicines Agency (EMA), Guideline on setting health based exposure limits for use in risk identification in the manufacture of different medicinal products in shared facilities

  • PIC/S, Guideline on setting health based exposure limits for use in risk identification in the manufacture of different medicinal products in shared facilities (PI 046-1)

  • PIC/S, Questions and Answers on the Implementation of Risk-Based Prevention of Cross-Contamination in Production and HBEL (PI 053-1)

  • ICH Q3C(R9), Impurities: Guideline for Residual Solvents

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