調整係数は、試験データを人の曝露評価に利用する際の違いや不確実性を考慮するために用います。係数の積だけでなく、各係数が何を扱い、なぜその値を選んだのかを確認します。PDEとOELには共通する検討事項がありますが、係数の構成や値は、それぞれの評価方法と曝露条件に照らして判断します。
調整係数は何を補うもの?
毒性試験や臨床情報から得られた結果を、そのまま別の対象者や曝露条件に適用できるとは限りません。動物と人の違い、人の感受性の違い、試験期間、算出の出発点となるPOD(Point of Departure)の性質などを考慮するために、調整係数を用います。
資料によって名称や係数の構成が異なるため、評価書では、参照した方法と各係数の定義を示します。「係数をいくつにしたか」に加えて、「何を考慮した係数か」を確認することが大切です。
PIC/SのPDE設定で使うF1〜F5
PIC/SのHBEL設定ガイドライン(PI 046-1)には、NOAEL(無毒性量)をPODとするPDEの算定式として、次の形が示されています。下の表は、その式における各調整係数の役割を整理したものです。
NOAELがmg/kg/day、体重がkgであれば、PDEの単位はmg/dayです。ここでは、人用医薬品について1人当たりのPDEを算出する場合を示しています。臨床データを用いる場合や、異なる投与経路へ外挿する場合などには、データに応じた検討が必要です。
| 係数 | 主に扱う事項 | レビューの観点 |
|---|---|---|
| F1 | 動物から人への種間外挿 | 試験動物に対応する値と、その採用根拠 |
| F2 | 人の個体差 | 人の感受性の違いをどのように考慮しているか |
| F3 | 試験期間の違い | 試験期間・動物種・試験の種類と、採用する値との対応 |
| F4 | 影響の性質・重篤さ | 対象となる影響について、追加の考慮が必要か、その理由 |
| F5 | NOAEL等が得られず、LOAELなど影響が認められた用量を用いる場合の扱い | PODの性質、認められた影響の程度、採用する値の根拠 |
この表は各係数の役割を示すもので、係数値の選択表ではありません。実際の値は、ガイドライン本文と関連資料の条件を対象データに照らして判断します。標準的な値を使う場合も、参照した条件を記録します。
PDEのPODの検討では、毒性だけでなく、意図しない薬理作用や臨床所見も確認します。また、F1〜F5で扱われない不確実性が残る場合には、その影響と追加の対応の必要性を検討します。
OELでも同じ係数を使えばよい?
PDEは医薬品の交叉汚染による患者への曝露を、OELは職場での作業者の曝露を評価するために用います。種差や個体差など、共通して検討する事項はありますが、対象者や曝露条件が異なります。
そのため、PDE設定に用いたF1〜F5の構成や値を、OEL設定にも自動的に適用するものではありません。係数の構成や値、曝露時間の補正、経路間外挿の要否を、採用する評価方法に沿って検討します。
「作業者だから個体差の係数は必ずこの値」「PDEを呼吸量で割ればOELになる」といった一律の扱いではなく、対象物質や利用目的に応じた判断が必要です。
CRASの支援については、PDE・OEL評価業務の紹介ページをご覧ください。
係数のレビューで確認したい4つのこと
1.PODの選定は妥当か
係数を検討する前に、採用した試験と影響を確認します。PODの選択が変わると、その後の係数や計算の前提も変わります。原報の用量、単位、投与頻度、観察された影響をたどれるようにします。
2.同じ不確実性を重ねて扱っていないか
各調整係数や補正が何を扱っているかを整理し、同じ違いや不確実性を重複して考慮していないかを確認します。一方で、必要な検討が抜けていないかも点検します。係数名が似ていても、方法によって定義が異なる場合があります。
3.標準的な値から変更する根拠があるか
個別のデータを理由に係数を変更する場合は、そのデータがどの違いや不確実性を説明できるのかを明示します。例えば、代謝に関する情報があっても、それだけで作用部位の感受性など、他の不確実性まで解消されるとは限りません。
標準的な値を維持する場合も、変更する場合も、対象データと採用理由が対応しているかを確認します。
4.別の担当者が判断を追えるか
係数ごとの採用値、判断理由、根拠資料の該当箇所をまとめます。複数の選択肢を検討した場合は、最終的な判断に関係する範囲で、他の値を採用しなかった理由も残すと分かりやすくなります。
レビュー担当者、確認日、評価書の版番号を記録しておくと、どの時点の資料と判断に基づく評価かを確認できます。
類似物質の情報を使う場合の注意点
対象物質の資料が乏しい場合、類似物質の情報を利用するリードアクロスを検討することがあります。ただし、構造が似ていることだけでは十分ではありません。作用機序、代謝、毒性の共通点と相違点を確認し、適用できる範囲と限界を整理します。
類似物質の情報を採用する妥当性と、調整係数をどう設定するかは、それぞれ検討が必要です。係数を大きくするだけで、類似性の根拠が不足した外挿を正当化できるわけではありません。
調整係数の設定根拠を確認するために
評価書を作成・レビューする際は、各調整係数の値だけでなく、その前提となるPODや経路間外挿も合わせて確認します。判断の根拠をたどれるよう、評価書に整理しておきたい項目を以下に示します。
| 記録項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 評価方法 | ガイドライン・文献名、版または発行年、参照箇所 |
| POD | 試験、影響、用量、単位、採用理由 |
| 調整係数ごとの判断 | 値、考慮する違いや不確実性、採用理由、根拠資料の該当箇所 |
| 経路間外挿等 | 必要性の判断、方法、使用したデータと仮定 |
| 残る課題 | 不足資料、残る不確実性、結論への影響 |
可能であれば、新たな情報が得られた場合などに評価を見直す目安も整理しておくと役立ちます。
調整係数のレビューでは、採用した値と根拠の整合性を確認します。
PDE・OELの設定や、既存評価書の調整係数・設定根拠の確認をご検討の方は、CRASにご相談ください。支援内容は、PDE・OEL評価業務の紹介ページでご案内しています。
参考資料
参考資料確認日:2026年10月1日。本記事は調整係数の一般的な考え方を解説するもので、個別物質に適用する係数値を指定するものではありません。